わけのわからない夢
悪寒のする夢を久しぶりにみた。
ともかくも聞いて欲しい
***
その日は会社の研修か何かで、ビジネスホテルの
個室に泊まる予定であった。早速指示された部屋
へ行くと、そこには既に先輩が陣取っていた。
「部屋替えがあってさぁ。すまんけど、君は 相部屋でしかもベッドが足りないから、床寝 だよ」
と唐突に仰る先輩。一体どうしたというのか。
憤りを感じながら、私は部屋替えをした社員の
元へと向かう。
するとそこには同じように不満気な表情で
小言を漏らす男がいた。色黒短髪の小柄な男。
彼はしきりに「なんとかならないんすかぁ!?
シャー!もう!」などと叫んでいる。
勝俣州和である。
私と勝俣が何ゆえに同じ会社で働いているのか、
まあそれは夢なので大目に見よう。
やがて私と勝俣は、「落ち着いた場所で話そう」
と上司につれられるがまま、小部屋を案内される。
私が向かって右側、勝俣は左の部屋へと入った。
するとどうだろう。部屋だと思われたその空間は、
なんとトイレであったのだ。目の前には汚物塗れの
和式便座が身構えている。映画トレインスポッティング
に出てきたトイレのように、汚臭漂う陰気な空間である。
すぐにでも抜け出そうと、ノブに手をかけるが微動だに
しない。体当たりしてもダメである。隣の部屋から
勝俣の「開けてくれー!」という悲鳴が聞こえてくる。
困惑する私たちの耳元に館内放送が入った。
「君たちは、24時間そこで寝泊りしてもらう。24時間後に
開放だ。以上!」
どうやら我々は何らかのトラブルに巻き込まれたようだ。
右側の壁には小孔が開いており、そこからは身悶える
勝俣の姿が見える。彼のほうもトイレにいるのだが、
便座は洋式でかなり清潔。広さも私の方よりひとまわり
は広い。正直、羨ましかった。
***
とりあえずやることもないので、体を横たえ眠りにつく。
すると、全身を独特のむず痒さが伝わってくる。皮膚を
見やると、白い粉のようなものが無数に付着している。
ノミのようだ。さらに前方から灰色の小動物が、私の
顔面めがけてジャンプしてきた。もんどりうって体を
逸らすと、その物体は、5cm大のネズミであった。しかも、
翼が生えている。そんな生き物が存在したとはまるで
知らなかったが、気分が悪くなり、私は卒倒した。
それから数時間後。隣の部屋から「ボフゥ」という
吐息が聴こえてきた。なんとなく勝俣とは異なる気配も
ある。どうしたものかと小孔を覗き込んだ私は驚愕した。
目の前に茶褐色の巨大な肉塊がある。視線をずらして
顔を見やると、全裸の勝俣の横にソイツはいた。
小錦である。
彼らはどこからか持ち寄った白タオルで互いの裸体を拭き
ながら、妙な言葉をささやき合い、励ましあっているようだ。
地獄絵を目にした私にかける言葉はなかった。
***
幾ばくかの眠りの後、誰かの足音で目が覚めた。
まどろんだ瞳を開眼すると、そこには作業着を着た
一人のおっさんが座っていた。おっさんは、壁に背を
かけ短い脚をダラリと伸ばし「わたしゃ、人生もう疲れ
ました」的なアンニュイさをかもし出している。
話しかけると、オッサンもどうやらこの場に強制的に
連れてこられたらしい。身の上話をすると、どうやら江戸川
区内では名の知れた板金工だという。普段はゴルフクラブや、
文房具をサイズ通りにキッチリ納めるメタリックバックを
制作しているのだという。
「ドクター中松が発明した、黄金のパターがあるだろ?
あれをピッタリしまうメタルケースがあるんだが、オレが
溶接して作ったんだ」
オッサンが得意気に語る。
その後オッサンの自慢話がしばらく 続いたが、果たしてこの状況で江戸川一の板金工がいらしても
何の役にも立たないのは明らかである。
その後少しだけ転寝をしている間、オッサンはいつの間にか
消えていた。果たしてなんのために彼はやってきたのか。
そんな思いに駆られていると、ドアをノックする音が聴こえた。
「はい?」
小声で応対すると、長身の美女がスルリとトイレに入ってきた。切れ長の目に色白の素肌。紛れもない。女優のりょうである。彼女は「汚いわね」などとひとしきり部屋を物色した後、ものの数分でその場を去って行った。
サインをもらう気力すら無かった。
***
24時間後。
開放された私たちの前に、ワイドショーのインタビュアーた
ちが次々と質問を浴びせてきた。ところが、である。
彼らの取材対象は95%が勝俣であった。勝俣は得意気
に悲劇談を語っている。
なんだよ、小錦と結構楽しそうにやっていたじゃないか。
そんな風に思い、小錦を探すが、いつの間にかどこかへ
消えてしまっていた。彼も板金工のように慰問的
要員だったのであろうか。
その後も勝俣は饒舌にトークをかまし、遂にはタレントとして
ダウンタウンの番組にも出演するようになった。しかも
彼の方のトイレには小型カメラが仕掛けてあったらしく、
その映像がたびたびワイドショーなどで放映されるように
なった。もちろん小錦部分はカットされていたのだが。
私の部屋のほうにも小型カメラがあったようだが、翼の
生えた小ネズミやあまりに汚らしいトイレはテレビ的にNG
だったようで、放映されることは無かった。それどころか
私がトイレに監禁されていたことすら、何者かの圧力で
隠蔽されようとしている。
どんなに訴えかけても私の想いは届かず、耐え切れない
私は電話で札幌の母親に愚痴ることにした。思いのたけを
全て述べると母親はこう漏らした。
「わかったわかった。あのさ、アンタの幼馴染のエミちゃん。
あんなに内気だったのに今、大阪行ってヤリマンなったらしいわ」
驚愕を通り越し、悪寒が走る。世界は想像もつかないほど危険な方向へ向かっているようだ。
***
私の予感は的中した。前代未聞の「トイレ監禁事件」は、
話題になり、ついには「いきなり!黄金伝説」のコーナー
と化した。そこで使用されるトイレは 勝俣が過ごした
空間である。やはり、私のいたトイレはテレビ的にNGらしい。
番組内で最初にトイレ監禁に挑戦したのは、かのサックス名プレイヤー、
クワマンである。
彼は綺麗好きなようで「絶対に飛沫を飛び散らせることのない放尿法」を披露し、狭い空間の中でも清潔に過ごせることをアピールした。
(放尿シーンはなぜかテレビ的に許されているようだ)
そして彼はその狭い空間の中「こんな仕事でも、あるだけ感謝
だよ。」と小言を漏らし、お茶の間の笑いをさらっていった。
クワマン伝説達成の後、挑戦したのはコギャル風タレント二人組みである。彼女たちは、女性ということもあり飲食の「出前OK」というハンディを与えられていた。
「じゃあ、ズバサンド二つお願いします」
コギャルAが注文したズバサンドとは、ハンバーグをフライ
にしてサンドイッチにしたものらしい。
便座の横でウマそうにズバサンドを頬張る姿に、電気屋の
テレビで事の成り行きを見つめていた婆さんが「最近の
若い子はたくましいねえ」と歓声をあげる。
そんな光景を見ながら私は、自分の伝説はいったいなん
だったのか。あのグロテスクな便座はどこへ行ってしまったのかと
困惑するのであった。
***
これが、本日見た夢の顛末である。こんな悪夢を見た要因として幾つか思い当たる節がある。
①深酒していた
②ヘルニア手術跡の傷口が痒かった
③その日深夜番組で「引田天功VS武蔵丸」を見て、武蔵丸を
小バカにしていた。
④その昔、クワマンを小バカにしていた
③について…
武蔵丸が微動だにしないでイリュージョンショーに参加
していのを見て笑い転げていた。その借りを同じハワイ
出身の小錦によって、夢の中で返されたと思われる
④について…
私の大学の卒業パーティでは、芸能人が司会をすることになっていた。しかし私の卒業年の前年度はガダルカナルタカ、 その前は見栄晴である。ギャラの安そうな微妙なキャスティング に私は「今年はクワマンか斉木しげるあたりが来るであろう」と予測し、それを聞いた友人達はなんともいえないブルーな 気持ちになっていた。
※ちなみに実際は、みのもんたが司会をやった。
同級生にみのもんたの息子がいたからと思われる。
結論:芸能人を小バカにすると夢の中で仕返しされる