天丼の温み

2009年10月11日
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本日はなんとなく天丼を食べに。

しかし、そもそも、ボクは天丼があまり好きではない。
牛丼のようにグワシグワシとカッコムことも、
カツ丼のように、卵と甘辛汁の染み付いた
衣をサックリ噛み締める・・・そんな喜びも
味わえないからだ。

まず、カボチャがあまり好きではないし、
天ぷら掻き分け、ごはんをススル仕草は
どうもなんだか、面倒くさいのだ。

***

ビギナーなボクは、とりあえずお馴染み
てんやで、秋獲りきのこ天丼なるものを食す。

とりあえず、海老にかぶりつく。
プチリと音がし、衣はスクッと剥ぎ取れた。
恥じらいでいた女が、明かりを消した途端、
スルッと、ブラウス脱ぎ捨てるみたいで
気持ちいい。

続いて信州おうぎ茸をヤッつける。
薄めのコロモを甘噛みすると、
ヌプッとしたキノコの食感に突き当たる。
まさに、キノコロモー、味もいい。
そのまま、急いで食べつくす。

おうぎ茸のあったスペースに、ほくほく白米
が浮かび上がる。
キノコの陰に隠れていたそれは、
天つゆに浸されること無く、
まるで、日焼け美人のブラジャー痕が
ごとく、艶かしい。

我慢できずに、むしゃぶりつくと、
幾分固めに炊かれた米が、甘辛い汁の元で
うれしそうにはじけていた。

「グワシグワシ」

カッコム度に、胃の中が温かくなっていく。

舞茸とカボチャのかきあげを食す。
食感が面白い。
サクホク!サクホク!
カボチャの甘みが、ドギツクならないよう、
舞茸がしっかりと、受け止め、大人の味に
変えていた。

仕上げの味噌汁をズズリとすすると、
お腹もココロもあったかくなり、
歯の間にネギが挟まっているのに、
しばらく気がつかなかった。

***

天丼を一言で例えるなら、

「異文化交流」

そう、まるで、山間の農業高校に湘南ボーイ
の海老沢君が転向してきたみたいに。

「け、なんだよ。赤い頭しやがって」

と、イモ顔の男が言う。

「とっちめてしまおうぜ!なんか、鼻につくんだよ
 あの、海老沢ってー、都会モン」

と、キノコ族の男たちも言う。

一番地味な、ひ弱なアスパラ君でさえ、

「なんか、自分だけいい気になってるよねえ」

と不満気味。

何も知らない海老沢は、スマシタ顔で窓側の
一番後ろの席に座って、外を眺めている。

しかし、そんなクールな仕草と、イカシタルックスが
巷で評判を呼び、やがて彼は街の人気者になってしまう。

不満げな男子同級生。

カボチャ先生が
「まあまあ君たち、みんなで協力しなさい」
と言うが効果なし。

海老沢VS地元ヤンキー集団。

カボチャ先生は何とかしようと
頭をひねる。

そして、思い出したのは、街に古くから
伝わる由緒正しき予言なり。

「テンツユーと、唱え続ければ、ある夜、奇跡の
 雨が降り注ぎ、街に平穏が訪れるだろう」

カボチャ先生は唱え続けた。

「テンツユー、テンツユー」

雨の日も風の日も。
何時間でも一人唱え続けた。
いつも、ホクホク笑顔の温厚な先生だったが、
しだいにやつれ、体は衰えた。

「テンツユー、テンツユー!幸せが訪れますように・・・」

その晩もカボチャ先生は、唱えていた

すると、奇跡が。

茶褐色の芳しき雨が、街に降り注いでくるではないか。
町中のあらゆるものが、茶に染められてゆく。

「テンツユー・・・」

カボチャ先生から、笑みがこぼれた・・・

***

こうして、テンツユ雨の元、海老沢とキノコ軍団、
イモ男、アスパラ君ら地元のヤンキーたちは、
互いの個性を尊重しながら幸せに暮らしたとさ。

おしまいおしまい。

結論:天丼、実はウマい。