ラブホを巡る冒険(前編)
突然ですが、皆さん最近ラブホテル行ってますか?
ボクは行きましたよ。
男とね。
まあ、そんなたわいもない話を聞いてほしい。
***
その日ボクは札幌中学時代からの友人カトさん
に数年ぶりに再会。
個室のある居酒屋「わん」でアジのなめろうなどを
食し、しこたま飲んだ暮れる。
いまだ生粋の道産子であるカトさんは、
酔っ払いながらも
「公園が少ないねえ」とか「プラットフォームで鳴る曲は、着メロみたいで
可愛いねえ」
とか
「バスの運ちゃんって、あれは族上がり?有り得ないでしょ、あのハンドルさばき。」
などと、チビチビと大都会東京の感想を漏らしている。
そんな、彼の姿を眺めながらボクも、9年前の上京したての
夏を思い出した。
そう、渋谷で待ち合わせしていた時、
○|○|を「オイオイ」と呼んでしまっていた、あの夏をね。
***
カトさんはとにかく人がいい。
音楽なんて全く聴かないのに、中3の合唱コンクールで
誰もやりたがらない指揮者に無理やり選ばれてしまった。
カエルの輪唱ならぬ、「中坊の輪唱」というやつで、
誰かが「ワタシはカトさんを指揮者に推薦しまーす」と言うと、
「ボクもカトさんを指揮者に推薦しまーす」とどこかの男児が叫び、
「ワタシもカトさん」「オレもカトさん」「カトさん」「カト指揮者」
「カトシキ」「カトシキシャ」「カートーキッチャン♪カトキッちゃん♪」
と、よく分からぬ展開で物事がすすんでしまった。
それでも、そんなガキどもの戯言を真摯に受け止めたカトサンは、
「ボクがやります・・・」と小さな声でつぶやいた。
それから数ヵ月後の、コンクール当日。
髪だけベートーベンの再来と言われた、2組の天パ井出君や、
現マック店長、熱血漢の西川が、有り得ないリズムとテクニックで
一刀入魂の指揮を続ける中、ボクは見てしまったのだよ。
カトさんが、青白い顔で四拍子のリズムを刻んでいたのを。
話が反れた。
ボクらは例のごとく終電を逃し、今夜の寝床を探していた。
既に4リットルほどのビールを胃袋に収め、
アルコールスーパージャンキー(略して、アルスージャン。コレ、絶対
数年後の流行語大賞だと思う)と化していたボクは、それでも
「夜の街東京ガイド」「酔いどれツアーコンダクター」として、
カトさんにふさわしきべき寝床を考える。
「意味深な夜更けのマンキツ」を推奨するのも良かろう。
「人気のない手コキマッサージ屋でシコシコ眠りにつく」のも良かろう。
だが、ボクはそこで素っ頓狂な提案をしてしまった。
「ラブホどう?」
予想外の返答に慌てふためくかと思われたカトサンであったが、
そこで、ピンク色に頬を紅潮させながらつぶやいた。
「面白そうだし、イイよ」
12年経ってもカトサンの人の良さは変わらない。
いざ、「男同士のラブホ捜索ツアーへ!」
高崎観光でございます。
***
一店目。
店は駅近くにあった。
平日だというのに既に行列。
ヤリタイ盛りのハイティーンが、行列をなして、今か今かと
セックスを待ち望んでいる。彼らの表情には「余裕」すら
うかがえる。
ボクらはそんなヨゴレタ奴らを、無言で罵倒しながら、
フロントのおばちゃんの下へと近寄る。
ボク「すいませーん。部屋開いてますか?」
おばちゃん「申し訳ないですが、男性同士はご遠慮願います」
瞬殺。
ヒョードルに挑んだズールだって、もう少し頑張った筈だ。
エレベーターに力なく戻ったボクらはまるで、捕虜確定の
兵士の様。そんな時、盛りのついたハイティーンの声がボソッと
聞こえた。
「あの人たち、ゲイかな・・・」
「ゲイだと思うよ」
「ワ!気持ちワル」
「ゲイだよ!ゲイ」
「ゲイ気色ワルッ!」
「ゲイキモッ!」
「アンキモッ!」
「キモキモキモッ!」
「ヌオオ・・・」
怒りの炎がメラメラと。
チラリとカトさんを見ると、ケンシロウバリに二の腕を震わせている。
青白い皮膚の下から、動脈が浮き出ている。
そういや、この人、中高野球部。
屈強な氏の肉体。
その気になればガキどもなんて半殺しだろう。
だが、温厚なカトサンは何かを言いたげに、口をボソボソと
震わせながら、目はウツロ気味。
カトサン、頼むよ。
何か言ってやってくれ。
「ゲ・・・・」
動揺し、間違っても、「元気玉!」なんて言わんといてよ。
「ゲスヤロウ」とか、何でも言ったってくれ!
カトサン「ゲ、ゲ・・・ゲイじゃないよー~!!!ゲ、ゲ・・・ゲイじゃないよー~!!!」」
ハイティーン「ガッハッハ!!」
オイオイ、それじゃあ、俺たちがゲイだって言ってるようなモンじゃねーか!
高倉健だってそこまで不器用じゃねーよ
もう、よくわからん。
どうにもこうにも五里霧中。
コッチも酔ってる。
どうでもいいよぅ。
***
二店目。
塩沢ときを髣髴させる、オバハンが、フロントの
怪しい光に照らされている。
ブランドものの衣装を身に着けた彼女。
はて、亭主は海外出張のエリート駐在員で、
シゲキを求めて、この小汚いラブホで働いているというのか。
まあいい。
ボク「すんません。部屋開いてますか?」
塩沢「お断りします」
ボク「どうしてすか?」
塩沢「男性同士だからです」
ボク「男性同士はどうしてダメなのですか?」
塩沢「ダメだから、ダメでございます・・・」
「ダメでございます・・・」
これも、「アルスージャン」に並び、数年後の流行語大賞確定!
「ねえ君、可愛いから付き合ってよ」
「ダメでございます・・・」
「先生、バナナはおやつと別でいい?」
「ダメでございます・・・」
「パンツみせて」
「ダメでございます・・・」
「有給消化を・・・」
「ダメでございます・・・」
「総理!日本の未来はどうなるのですか!?」
「ダメでございます・・・」
発言者のヤル気と意欲を1秒で削ぐキラーフレーズ。
敬語には、はるか届かない秒殺ワーズ。
そんなコトバが多用される時代もいつか、きっと来るであろう。
***
世の中頑張ったってダメなものはダメなのさ。
なんて、あきらめかけてた三店目。
ラッキーなことに、自動ログインのラブホらしい。
部屋のボタンを押せば、勝手に扉が開く。
オイオイ、いーのかよ。
コレじゃあ、エンコ~だろうが、ラブホ殺人事件だろうが
ヤリタイ放題ジャン。
まあ、そんな世を憂いても仕方が無いので、
ボクらはとりあえずダブルベッドにダイブする。
「お腹減った?冷蔵庫にアイスあるよ。それとも、フロ?」
カトさんが言う。
オイオイ、チミはオレのカミさんか?
高めに設定された暖房のせいで、カトサンのピンク色の
頬が深紅に染まって見える。滑らかな肌。
部屋には男二人。
オトコ二人。
そういや、カトサン彼女いたっけ・・・
いたっけ・・・
いたことあったっけなあ・・・?
(続く・・・)