二人のカリスマ店員
うちの近所(西蒲田)には二人のカリスマ店員がいる。カリスマというと死語に近いが、その二人は少なくとも僕の中では光っていて、他に見つかる言葉もないので敢えてそう呼ばせて頂こう。
一人目はコンビニで働くA君(推定22歳)。彼の得意技はレジの早打ちで、テンキーマスターのごとく巧みにさばいてあっという間に会計を終わらせてしまう。小銭を探すこっちがプレッシャーを感じてしまうほどの驚くべき早業なのだ。
もう一つ彼が秀でているのは状況判断能力。レジ前にちょっと行列ができていたかと思うと、店の奥からでさえ物凄い勢いで駆けつけ、にこやかに接客し、むさ苦しい僕にでさえ、アイドルサイン会のごとくきちんと両手でつり銭を返してくれるのだ。最近は公共料金しか支払いに行かない僕だが、そんな僕にも彼は秋晴れの青空のごとく澄み切った声で「いつもありがとうございます」と声をかけてくれるのだ。
昔僕がミニストップの深夜でバイトしていた時は、レジ裏でニコチン吹かしながらエロ本読んでいるようなやる気のなさだった。彼の接客能力はそんな当時の僕の100倍以上と言っても過言ではないだろう。やる気の無い店員といえば、その店にはとんでもない男がいた。10円のつり銭を返すときに10円玉が無いと舌打ちし、5円玉2枚で返すというツワモノなのである。当然客にキレられるわけであるが「金は金だろ」と言ってねじ伏せてしまうのが彼の凄さであった。全く持って恐ろしい男だ。
続いて二人目のカリスマは、近所の100円ショップで働くBさん(推定40歳)。彼女は一見昔綺麗だったんだろうなあ・・・と思えるほどの中々の容姿の持ち主なのだが、「わたしゃもう人生疲れました」というアンニュイな雰囲気をかもし出しているのも事実である。そこが、たまらない。
レジを打つのももたつくし、商品の場所を尋ねると「えーっと
」と言ってややしばらく悩んでしまう。こっちが当に場所に気づいてしまってもまだ悩んでいる・・・そんな感じなのだ。彼女が店で働き始めたときは「新人だからしょうがないなあ」と思っていたが、半年たった今でも全く進歩していない。
先日紙を綴じる紐を探していて見当たらなかったため、近くの店員に尋ねた。腰を上げたのは運悪くBさんだった。しかしいつもとは違い「紐ですね。はいわかりました!」と言って心なしか嬉しそうなのだ。場所を知っているのかなと思ってしばらく見ていたが一向に見つからない様子。他の人に聞こうかなと思っていた矢先、彼女が「お客様!ありました!」と満面の笑みで応えてくれた。その時の彼女の笑顔は、先ほどのA君の笑顔とは別物で、少女のごとく純粋に微笑んでいた。
きっとBさんは若いバイトの連中には「Bさん使えない・・・」などと煙たがれているのだろう。ひょっとしたら飲み会を開くときなどにも「Bさん誘う?どうする?」などと囁かれているのかもしれない。
Bさんはきっとその昔は事務職なんぞをして女子社員には「とろい」「不思議ちゃん」などと陰口を叩かれていたのだろう。しかしなぜか社内一のイケメンリーマンの目にかけられ、女子社員の羨望を受けながらも愛を育んだ・・・。やがて子供もでき幸せな生活を送っていた二人であったが、イケメン亭主が一念発起して起業・・・しかし事業に失敗。Bさんはパート生活を余儀なくされた・・・なんてまたしても妄想。
パートのおばさんといえばうちのおふくろも数年前まで魚屋で朝早くから刺身用の魚などをさばいていたそうな。僕の学費を稼ぐためだったかと思うと涙モノである・・・が、僕が大学を出たとほぼ同時に仕事をやめて現在は藤木直人の追っかけなんぞをしていると聞いたので一安心。
今度Bさんに声をかけてみようかな・・・恋愛対象ではないが友達にはなってみたい。