恐るべし富士そば
どうでもいいのだけど
気になって仕方が無いものがある
厨房のオヤジに向かって「ぶっ殺す!」
と叫んだ、近所の中華料理屋店員の口の悪さとか
ライターについてるバーコードシールが剥がれかけて、
「あ、これ、誰かん家の学習机のビックリマンだな」
とか
いつも使用中になっている障害者用トイレとか
緑のたぬきと、どんべえの味の違いとか
児玉清の手の振るえとか
そんなものを抑えて
どうでもいいけど気になる第一位は・・・
富士そばの演歌歌手のポスター。
なんだ、社長の趣味だよと言ってしまえば
それもそうなのだが
もりそばなどを突付きながら、
「はて、ざるそばとの差異はなんだったかな?」
などと思考を巡らせていても
眼球の隅っこに鋭く刺さる坂本数馬
どうしても気になる。
週に5回は通う同店で 僕の背後に、いつものしかかる坂本数馬の影
ついつい、「カセットテープあります 1500円」
のコピーに揺られる自分
サブリミナルを狙った新手の広告戦略か?
IWGPでジェシーを富士そばでナンパしたというキングも
キング(窪塚)「まこっちゃん、数馬超イケテンじゃん」
マコト(長瀬)「あー面倒くせえ!どうでもいーじゃん」
などと会話したのだろうか?
それはさておき、俺に与えるだろう坂本数馬の予測される効果
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時は2020年。
今年で僕も41になった。
世間で言えばもう十分中年だけど
まだまだ若いと自負する僕。
おなかのぜい肉はだいぶついたけど
心のぜい肉はもうそぎ落とした。
そう、僕はまだまだ若い
田町の大衆居酒屋、つるの屋で大学時代の友人達と思う存分思い出話を語り合った。
大学時代に、日比谷公園の噴水に飛び込んだねとか
TはまだN子に未練タラタラだとか
そんなたわいもない話をしながら、楽しく、そしてあっという間の夜が過ぎた。
明け方の帰り道、僕らは昔のように、まるで「愛という名のもとに」さながら肩を組んで歩いた。
「東京タワー・・・きれいだね」
N子がつぶやいた。
「うん・・・」
誰かがつぶやいた。
夜明けの街をうっすらと赤く染める東京タワーは、僕たちを煌々と照らし出す。
N子がカメラを取り出すと、皆自然に寄り添い、笑顔になった
「1+1は~?」
「2・・・!」
そう言った瞬間、初老の紳士が僕らの前を横切った
「あ、もう一回!」
N子がそう言いかけた時だ。
初老の紳士が妙に、抑揚のきいた声でつぶやいた。
「すいません。撮りますよ」
あでやかな服装が印象的なその紳士は
「ハイ~♪チーズ!」
と、こぶしの効いたいい声でつぶやいた。
「ありがとうございます!」
皆一斉に礼を言う中、僕は素っ頓狂な雄たけびをあげてしまった。
「あの!!どこかでお目にかかりましたか?」
すると初老の紳士はやんわりと
「ホッホッホ。私のような平凡な顔立ちはどこにでもいるものですよ。」
と言い、静かに去っていった。
足取りが年齢を感じさせないほど軽やかだった。
「気のせいジャン!あー!それより、腹減った!なんか小腹すいたな!」
Tがぶっきらぼうに言い放った。
「そば食うぞ!富士そば!」
僕はなんだか無性にそばが喰いたくなってしまったのだ。
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これが、サブリミナルな富士そば戦略。
恐るべし坂本数馬の影!
パブロフの犬みたいなもんですな。