大輔兄さんと僕
日能研のリュックを背負う小学生を見て、叫んでやりたかった。
「オレ見たいになるなよ!」
偏差値70からのダメ人生を繰り広げた僕。
だが、その台詞にはどこかで聞き覚えがあるような、
不思議な懐かしさがあった。
××××××××××××××××××××
小学校高学年、そろそろ息子の方も育ち始めたかという時、
エロ本捜索の旅に野郎どもは繰り出す。
当時の世の中には人徳者がかなりいたらしく、橋の下とか
野球所の仮設トイレとか、もうエロ本だらけですよ。
中にはカピカピぱりぱりで、勇気を出して
ページをめくると虫の巣屈となっているのもあったりして、
「ぎゃー!!」って叫んでしまうのだけど、
インディージョーンズ魔宮の伝説
気分でとてつもなく楽しんでいたわけです
でもやがてそんなのじゃ、物足りなくなるわけです。
そう、われわれが欲していたのは無修正!!
修正液を、臭精液と修正しているような奴が
クラスじゃ人気者で、そういう奴に限って、
学級文庫の国語辞書を開き
「なんで、マ○コがないんじゃー!おっぱいなんかじゃ 物足りんぞーっ!!」
ってヒス入ったりするのだけど、
しっかり、「おっぱい」の四文字に赤丸つけてるわけですね。
そこでその修正太郎に「無修正持ってない?」
と聞くのだけど、彼はきっぱり首を横に振るわけです。
「この前、アサヒ電機(近所のレンタルビデオ屋)の
カーテンの向こうに行ったけど、そんなのなかったぞ」
そう言いながらも彼は、ビデオ屋に置いてあった
AV紹介冊子の破片を、大事そうに持ってるわけです。
リコーダーの袋に忍ばせながら。
ボクも当時、家族が「美味しんぼ」を見ている中
「クソしてくる」
と言って、両親の寝室に忍び込み、 オヤジのデラべっぴんをめくっては、
一番好みの 女の子のページを小さく切り抜いて持っていましたから、
彼の気持ちはよくわかる。
みんな、シャイだったんですよ。
だが、ある日僕らの前についに神が現れる。
転校してやってきた、タダトシ君。
小学生ながら、最長時12cmにはなるという 巨根の持ち主。
しかも、彼には年の離れた 兄貴がいる。
ある日、タダトシ君の誕生会に呼ばれた僕ら。
ケーキなんかそっちのけで彼の部屋を 後にし、隣のお兄さんの部屋へ。
引き出しを開けると、デラべっぴんとアップル通信が 数冊!
おお!いい滑り出しだ。
奥底に手を伸ばすと、カプセルに包まれた
パンティ。
とりあえず、においをかぐ。かぶってみる。
「しみついてないから、にせもんじゃねーの!」
マセガキの発言は恐い。
タダトシ君は、しきりに窓から外をのぞいている。
「兄貴、そろそろ帰ってくるよ・・・」
不安げな表情。
しかし、欲求には勝てないのが僕らエロガキ、チームエロ。
三段目の引き出しを開けたとき、ユーヤが素っ頓狂な声を
あげた。
「ルイ伝説」と書かれたビデオパッケージ。
何やら妖しげな予感。
デッキに挿入すると、「松下老人」と名乗る怪しい じーさんが語りだす。
「その昔、わしが竹やり特攻隊だったころ、マ○コー!!
っと叫んで、若者は盛っていたよ。ところが最近の
若者は優しさをしらず・・・」
何やら意味不明の切り口。
だが、その後女王桜木ルイの美体があらわに・・・
「赤ちゃんできたらどうするの!ねえ、どうするのよ!」
叫ぶ彼女の恥部には確かに黒々とした・・・
「ヌオー!」ユウヤが叫ぶ
「ウオー!」ボクもつられて叫ぶ。
「アワビー!」なんて、気の利いた言葉は出てこない。
衝撃と笑劇。
グロテスクだが、人生観を変えてしまうほどのエロスは、
確かに、そこにあった。
タダトシ君は、ちら目でビデオを見ながらも
「本当にもう、帰ってきちゃうよ!」
と外の様子が気になる様子。
そんな彼の様子を気にすることもなく、 ボクは息子をまさぐっていた。
オナニーのやり方なんて、どこで覚えたのかわからない。 聞いたこともない。
だが、さかのぼること二歳の時、夫婦ゲンカをして、
一人寂しく寝室で眠る親父が、こっそりとアソコを
まさぐる姿を、ボクは目の隅に焼き付けていて・・・
んなわけない。
本能ってやつだろう。
人間はサルじゃない。
自分が気持ちよくなる方法は自分で見つける術がアル。
「帰ってきちゃうよー」
嘆くタダトシ。
「ヌオー」
叫ぶユーヤ。
そして、無言でまさぐり続けるボク。
ビデオデッキを発明した、ビデ男さんに感謝。
ビデなんて言葉、当時のボクは知らなかったけど、
きっと君も素敵なエロだったのね。
ほら、ルイ女王様があえぎ始めた。
低くうめきながら夢中でチ○コをまさぐる僕。
「アン、アウ、ハア、アッ!!!」
「やべえ、大輔兄さん帰ってきたー!」
「ヌオー!」
「う、うう・・・」
ドンドンドン(階段を上る音)
「アン、アウ、ハア、アッ!!!」
「隠れなきゃー!」
「ヌオー!」
「う、うう」
ドンドンドン!!
「アン、アウ、ハア、アッ!!!」
「う、うう・・・うっ・・・!!!!!!!!」
その時だった。勢いよく開いたドア。
現れたのは、小太りパーマ男。
紛れもない。兄さんだ。
「てめえら・・・!」
瞬時の判断で、タダトシがTVを消したものの、
部屋に転がるパンティとデラべっぴん。
事の次第は二秒でわかるだろう。
「ごめん、そんなつもりじゃ・・・○△×」
タダトシが何かを叫んだが、大輔兄さんは
容赦なく彼を突き飛ばす
「てめえら、○△×・・・!!」
興奮した兄さんが説教をし始めた。
シュンとしてしまったタダトシ&ユーヤ。
だがその時ボクにとって、その部屋は無音と 化していた。
下腹部に味わったことのない、温かみと 違和感がある。
部屋を見渡す。
テーブルに広げられた兄さんの卒業アルバム。
一人の女の子に丸印がつけられ、
「大輔の好きな人」
と書かれてある。
机を見る。
車や、ヘアカットモデルのような落書きの間に
「大輔頑張れ!青春だ!頑張れ!」
とカッターで刻んである。
そういえば兄さんは高3。
受験勉強でもしているのだろうか。
ほぼ無音と化した部屋の中、唯一記憶に
残る兄さんの台詞。
「てめえら!オレみたいになりてーのか! オレみたいになるなよ!」
後で聞いた話だと、兄さんはその翌月 高校をドロップアウトしたらしい。
いじめが原因で。
その日の夜ご飯は憂鬱だった。
女の子なら赤飯でも出てくるのだろうが、 出てきたのは、
いつもと変わらぬ白いおまんま。
妙なリアルさにシュンとしていた僕。
タダトシの家からの帰り道、
下腹部に違和感を抱えた僕は、チャリンコを
手押ししていた。
運悪く、途中同級生に遭遇。
「どうしたん?パンクでもしたんか?」
不思議そうにタイヤを見つめる彼らに
「まあね」
と力なくつぶやく。
家に着くと真っ先にトイレへ入る。
パンツをぬぐと、白いものがカピカピに
なってこびりついてる。
そういえば、去年先生が言ってたな。
男の子にも、女の子みたいのがあるって。
ぐしゃぐちゃのパンツに僕は、無意識に 小便をかけた。
酸性とアルカリ性?
中和してなんとかならんものだろうか。
臭いものには臭いもの。
においが消せるかも知れん。
黄色と白の混じったパンツを、洗濯機の 奥底にしまった。
だが、その直後、母親が
パンツを取り出し、不思議そうに臭いを
かぐのを見てしまった。
それだけに、白いおまんまはつらかったのだ。
××××××××××××××××××××
日能研の子供たちが、遠ざかっていく。
今の時代、ネットもあるし女の裸なんて
見たい放題なんだろうな。
そんなことを考えながら、大輔兄さんを思い出す。
「オレみたいになるなよ」
僕と兄さんは一見違うけれど、どこかしら似ていた のかもしれない。
それは、
桜木ルイをモーレツに愛していたところだ。