クリーニング屋のみき君
友達になりたい人というのがいる。
街ですれ違い、混雑した電車の中で、普段は綺麗な
お姉さんのケツばかりを目で追っているというのに、時たま
なぜだか、同性の何でもない男に対し、不思議な
「友達になりたいんです」オーラを振りまいてしまう
自分がいる。
いまボクにとってのそいつは、近所のクリーニング屋みき
で働く、小太りな男だ。いつもセンスの無い茶褐色の
ボタンシャツを着ており、安っぽい黒ブチの眼鏡を
かけている。
「年齢不詳」という言葉はこの人のためにあるがごとく、
年齢は不詳。だが、肌ツヤはよく、18~25といった感じ
だろうか。同級生には「お父さん」と呼ばれているに
違いない。
久しぶりにボロボロなスーツを休息させるために、
近所のその店へ赴くと、「一家そろって」の言葉相応しく、
パックされたスーツやドレスがひしめく中、三世代の面々が慌しく働いていた。
彼の仕事は受付のよう。「急ぎでお願いします」というと、
彼はカレンダーをチェックし、「あさってならOKです」
と答えた。「明日でお願いします」とボクが付け加えると、
「大丈夫です」と彼は、さして困ることも無く、実に
頼もしい眼差しでそう、答えた。
見た目からすると、今をときめくニート君のような彼。
クシャクシャの髪の毛。開かずの扉の向こうで、
暗がりの中煌々と光るPCを眺めながらにやけている姿
を一瞬にして想像してしまった。だが、グシャグシャのまま
渡したYシャツやスーツを手際よくまとめ、瞬時に料金を
告げる辺りが、そんなイメージを一瞬に払拭した。
人を見た目で判断してしまった自分に懺悔。
彼があの、若さで家業を手伝う動機はナンだったのだろうか。
本当はゲームプランナーとか、シナリオライターとか、
グラフィックデザイナーとかそんな横文字職業に就きたかった
のかもしれない。否、今でもその夢を追いかけつつあるのかもしれない。
かと思えば、休日は家でビッグコロッケパンなんかを頬張りながら、
「彼女できたか?たまには外行きんしゃい」と、おばあちゃんに心配されるような、
想像通りのジミーな暮らしっぷりなのかもしれない。
だが、昼下がりの曇り空。住宅街の奥まったところにある古びれた、クリーニング屋で、おっちゃんやおばあちゃんに混じって黙々と働く彼の姿が、妙に印象的だ。同級生の友人は、きっと、スーツ姿のリーマンや、スタバ、TDL、GAPなんかの洒落た職場で働くフリーターであろう。
本日品物を受け取ると、彼は実に手際よく綺麗にスーツやシャツをまとめてビニール袋に渡してくれた。実に鮮やかな動きである。
「一緒に、ラーメンでも食いに行きませんか?」
そんな風な言葉が口元からこぼれそうになったが、慌てて止めた。彼の本当の暮らしぶりを知ってしまうのが恐かった。 眼鏡の奥の中光るつぶらな瞳が、何となくSッ気をかもし出しているような気がしてならなかったからだ。だから、彼は実際夜の歌舞伎町を掌握しているようなプレイボーイなのかも知れない。
パリパリの黒スーツとサングラスが 不思議なほど似合いそうな気もする。
想像するのは楽しい。そして現実は恐い。だけど、気にしなければ見過ごし通り過ぎていくような関係が、実は本当は重要なもののように思えてくる
だから、日に日に店に通いつめ、そして徐々に徐々に
彼との距離を縮めていこうと思う。
いつの日か、一緒にラーメン食べに行けるように。